
クンフー映画の巨匠として武術指導者でもあるラウ・カーリョンは、自作にも出演していたが、本作で初めて主演として登場した作品である。 ここでは、京劇の孫悟空役者にして猿拳の達人という役を演じているが、俳優としての貫祿だけでなく、クンフーアクションの華麗さを見せつけている。また、本作が映画デビューで主役の一人として抜擢されたシャオ・ホウも、猿のようなすばしこいアクションを全編に渡り、見せつけているのも驚嘆する。
共演には、 『キングボクサー大逆転』のロー・リエと、『レディークンフー激闘拳』のベティ・ウェイといったラウ家班おなじみの面々。 主人公二人が山にこもって修行するシーンでは、クンフー映画ファンにお馴染みの『黄飛鴻』のテーマ曲「将軍令」が流れるのがうれしい。

京劇役者の兄妹であるチェン(ラウ・カーリョン)とメイメイ(ベティ・ウェイ)は、十八番の孫悟空を演じた夜、見物に来た町の実力者ドアン(ロー・リエ)の豪邸に招かれる。酒に酔って猿拳を披露したチェンは、泥酔してしまうが、目が覚めるとドアンの妻とベットに横たわっていた。ドアンの罠にはめられたチェンは両手をたたきつぶされ、そうとは知らないメイメイは、兄の非礼をわびるために、ドアンの妾となった。時は経ち、手の自由がきかなくなったチェンは、猿まわしとなっていた。だが、かせいだわずかな金も、地まわりのやくざにかすめとられてしまう。それを見た青年・小猿(シャオ・ホウ)は、やくざに戦いを挑むが、たたきのめされてしまう。その悔しさから、クンフーができるチェンに頭をさげて弟子入りし、二人は山にこもって猿拳の特訓を始める。
下山した小猿は、やくざをやっつけ、元締のところへつれて行かせるが、そこに現われたのが、あのドアンだった。小猿はドアンの強さに歯がたたないうえに捕まるが、小猿の拳法が兄のものだと悟ったメイメイに助けられる。山に戻った小猿は、ドアンを倒すために、さらに厳しい特訓を開始した。

ラウ・カーリョン監督作『マッドクンクー猿拳』(79)は、単に猿拳映画の秀作だけでなく、当時のカーリョンの周辺を巡る“三つの敵”との闘いを象徴している作品だ。
まず第一の敵。それがカーリョンと因縁浅からぬチャン・チェ監督が台湾から連れて来た5人のユニット“五毒”の躍進だ。京劇出身の“五毒”たちは、その脅威的なアクロバット&ウェポン・アクションを武器に、短期間で次々と良質な作品を完成させ、当時のカーリョンを慌てさせた。この“五毒”たちのアクロバット・クンフーに対して劉家班で対抗できたのが、『〜猿拳』の主演武打星シャオ・ホウだったのだ。
第二の敵は、当時、日の出の勢いだったジャッキー・チェンだ。ジャッキーが前年に撮ったコメディ・クンフー『ドランク・モンキー酔拳』(78)に刺激されたカーリョンは、『〜猿拳』でのシャオ・ホウとの練武シーンで“将軍令”を高らかに鳴り響かせることで、「自分こそが黄飛鴻直系であり、コメディ・クンフーの本家だ!」と、強烈にアピールしたのだ。
そして第三の敵が、『〜猿拳』で悪漢・長遠を演じたロー・リエで、実はロー・リエ監督作『続・少林虎鶴拳 邪教逆襲』(80)は当初カーリョンから思い切り“駄目出し”された映画で、カーリョンが友人でもあるロー・リエに対し、「これが本当の功夫片だ!」と示すために撮ったのが、今もカーリョンが最も愛する作品『ワンス・アポン・ア・タイム英雄少林拳・武館激闘』(81)だったのである。
知野二郎(香港功夫映画評論家)
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