
ブルース・リーの『燃えよドラゴン』が全世界で公開する直前の1973年3月全米で公開され、その年の興行収入第3位を記録する大ヒットを放った香港映画初の欧米市場成功作品である。この作品の登場が、クンフー映画の世界的流行の発端となり、主人公を演じたロー・リエも、海外スターとして活躍するようになった。また、監督のチェン・チャンホー(韓国読みチョン・チャンファ)は、韓国人として初めて香港で活躍した映画人であり、香港の監督とはひと味違った作品を作り出している。日本でも74年の7月に公開されているが、当時の宣伝では、目玉をえぐり出すなどの残酷描写を押し出す、過激なクンフー・アクション映画として紹介されている。

田舎の道場で国術を学ぶチャオ・チーハオ(ロー・リエ)は、師匠の勧めで、 保定府の尚武国術館の館長スン・シンペイ(ファン・ミエン)の元で修行をつむことになる。だが、力不足は否めず、チーハオは1年間、下働きをつとめたあと入門を許される。一方、高橋鎮の百勝武館道主のモン・トンシャン(ティエン・ファン)とモン・ティエンション(トン・リン)親子は、華北5省の武林盟主を決する武術大会に勝つために、ライバルの尚武国術館をつぶそうと、日本人の岡田ら3人の武道家を呼び、尚武国術館の弟子たちを襲わせる。スン館長はチーハオに秘術「鉄掌」の指南書をさずけるが、それを妬んだ兄弟子のハン・ロン(ナン・コンシュン)の裏切りで、チーハオは岡田たちに両手を潰されてしまう。歌手イエンに助けられ傷が回復したチーハオは、スン館長たちの励ましで修行を再開。道場の代表として武術大会に向かうが、そこへ岡田たちが待ち伏せしていた…

『キングボクサー大逆転』(72)の監督チェン・チャンホーは韓国出身で、1960年代終盤に韓国の映画監督として初めて香港のショウ・ブラザースと5年契約を結び、『千面魔女』(69/未)を始め、『女侠賣人頭』(70/未)、『六刺客』(71/未)などの武侠映画で評価を高めた後、『キングボクサー〜』の監督に至る。当初チェン監督は、本作にはデビッド・チャンなどの主演を望んだが、ショウ・ブラザース内における韓国人監督への差別により、チャン監督は以前の監督作『餓狼谷』(70/未)などで起用したロー・リエ主演で映画を撮ることとなる。だが結果的にはこのロー・リエの男臭い存在感と、チェン監督の力強い演出&俊敏なアクション構成は見事にマッチし、『キングボクサー〜』は翌73年にはアメリカで『Five Fingers Of Death(死の五本指)』の題名で公開され大ヒットを達成し、一躍欧米に香港クンフー映画の存在を知らしめたのだった。その後チェン監督は、ショウ・ブラザース内での女帝モナ・フォンの横暴を嫌い、レイモンド・チョウ率いるゴールデン・ハーベストに参加。そこで『スカイホーク鷹拳』(74)、『鬼計双雄』(76/未)、『破戒』(77/未)など多くのクンフー映画の傑作を残した。『キングボクサー〜』は、今年のカンヌ映画祭のクラシック部門にも出品を果たし、今も韓国人が監督した香港クンフー映画の古典として改めて再評価されている。
知野二郎(香港功夫映画評論家)
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