
陳観泰 | 羅烈 | 傅聲 | 劉家輝 | 劉家良 | 張徹 | 王羽
60年代半ば、香港映画はスター女優の時代だった。その流れを変えたのが、ヒーロー主体の陽剛(マッチョ)路線を打ち立てたチャン・チェ(張徹)監督である。上海出身の知識人で、映画評論や脚本など文筆方面でまず名を上げた彼は、カリスマ経営者ランラン・ショウに見込まれてショウ・ブラザースに入社。オーディションで見出した新人ジミー・ウォング(王羽)を『虎侠殲仇』(66/未)以来たて続けに起用し、『片腕必殺剣』(67)が香港初の興収百万ドルを突破する大ヒット。「男の映画」の時代が堰を切ったように始まった。
チャン・チェの映画は、友情、義理といった精神面、武術の鍛錬から捨て身の死闘まで肉体面の両方で徹底的に男の美学にこだわった。流血とカタルシスに満ちたバイオレンス描写は観客を興奮させ、デビッド・チャン(姜大衛)、ティ・ロン(狄龍)、フー・シェン(傅聲)をはじめ、りりしく男前なチャン・チェ組の若衆が次々と大スターに育っていった。日本からスカウトされた倉田保昭もその一人。当時、チャン・チェの心意気にぐっときた倉田さんは「この人についていこう」と思ったそうである。映画の中で繰り返し描かれた男たちの世界は、そのまま監督とスターの関係でもあった。スターだけでなく、チャン・チェの助監督を経験し薫陶を受けたジョン・ウー(呉宇森)やチャン・チェの片腕として活躍した武術指導のラウ・カーリョン(劉家良)がその後監督に進出し、クンフー映画・アクション映画の第一人者となったことはよく知られている。さらに時間と国境を超えてタランティーノに至るまで “チャン・チェ・チルドレン”は枚挙にいとまがない。
そうしたチャン・チェ作品において、女性キャラクターは基本的に主人公のヒロイズムをきわだたせるための存在にとどまった。監督が男優をこよなくめでて、女優には興味がなかったというのはけっこう有名な話である。そうはいっても元女優さんと結婚しているし、観念上の絶対的な男性上位主義者だったということだろう。ちなみに、筆者は幸運にも晩年の監督に話を聞く機会があったのだが(00年)、訪ねていった自宅で、資料整理などを手伝っているという青年が監督のそばでなにかとサポートしていたのが印象的だった。

当時、監督は高齢で体がかなり不自由だったこともあってもっぱら家で文筆活動を中心にしていたが、『五毒拳(五毒)』のハリウッド・リメイクなど新たな映画の企画にも意欲を見せ、気力は充実していた。監督作の中で特にお気に入りの作品を尋ねてみると、『大女侠(金燕子)』『五毒拳』『ヴェンジェンス/報仇(報仇)』『ブラッド・ブラザース/刺馬(刺馬)』『洪拳小子』(未)が比較的満足している、とのことだった。
02年4月、第21回香港電影金像奨の終身成就賞を受賞。監督自身は自宅で賞を受けたが、会場には初代の契仔(息子同然ということ。一種の精神的契約関係)ジミー・ウォングから五代目契仔チン・シウホウ(錢小豪)まで往年の徒弟たちがずらりと登場し、香港映画に1つの黄金時代を築いた巨匠の偉業をたたえた。それが一種の前ぶれだったかのように、同6月、チャン・チェ監督は肺炎で亡くなった。享年79歳。
その後ほどなく香港でショウ・ブラザースの幻の名作群がDVD化され始め、今や日本でもチャン・チェ作品が次々とリリースされている。監督もきっとあの世で、可愛がっていた夭折のスター、フー・シェンあたりと談笑しながら喜んでおられることだろう。
浦川とめ(ライター)

| 1967年 | 『片腕必殺剣』『大刺客』 |
| 1968年 | 『大女侠』 |
| 1969年 | 『続・片腕必殺剣』 |
| 1970年 | 『英雄十三傑』『ヴェンジェンス/報仇』 |
| 1971年 | 『新・片腕必殺剣』『フィストバトル/拳撃』 |
| 1972年 | 『上海ドラゴン英雄拳』 |
| 1973年 | 『水滸伝』『復讐ドラゴン英雄拳』『ブラッド・ブラザース/刺馬』 |
| 1974年 | 『嵐を呼ぶドラゴン』 |
| 1975年 | 『続・少林寺列伝』 |
| 1976年 | 『少林寺列伝』『続・嵐を呼ぶドラゴン』 |
| 1977年 | 『南少林寺VS北少林寺』 |
| 1978年 | 『五毒拳』『残酷復讐拳』 |
| 1981年 | 『仮面復讐拳』 |
| 1984年 | 『上海13』 |
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